数十億ドル規模の帝国スターバックスが2008年の金融危機を乗り越えるのに役立ったデジタル変革の成功を振り返る
スターバックスのデジタルトランスフォーメーション成功事例
スターバックスは、1971年にアメリカ・シアトルで最初の店舗をオープンして以来、52年の歳月をかけて世界有数のブランドへと成長しました。しかし、2008年のアメリカの金融危機の影響で、多くの店舗が閉鎖され、何万人もの従業員が失業するという深刻な危機に直面しました。この時、スターバックスの経営陣は、大胆かつ的確な判断を下し、「デジタルトランスフォーメーション」への舵を切ったのです。
1. スターバックスという億ドルブランドの概要
スターバックスは1971年にアメリカ・シアトルで開店し、英語教師、歴史教師、作家という3人によって創業されました。ブランド名は小説『白鯨(Moby Dick)』からインスピレーションを得ています。現在のCEOはハワード・シュルツ氏です。
創業から約52年、スターバックスはコーヒー小売業界の売上リーダーであり、アメリカおよび世界中で最も信頼されるブランドの一つとして評価されています。現在、スターバックスは80か国以上に32,000以上の店舗を展開しています。
2. スターバックスのデジタルトランスフォーメーションの軌跡
スターバックスがデジタル化に本格的に乗り出したのは2007〜2008年のことで、ちょうどアメリカで金融危機が発生し、世界的な経済不況へとつながった時期でした。
経営不振により、約1,000店舗を閉鎖し、10,000人以上の従業員を解雇。2008年には純利益が6億7900万ドルから3億1500万ドルへと激減し、株主資本利益率も29%から13%へと落ち込みました。
このような混乱の中、スターバックスは「世界初のテクノロジー・コーヒー企業」になるという大胆な決断を下しました。
重要なデジタル施策
● Starbucks Digital Ventures(SDV)の設立(2008年)
SDVは、スターバックスから独立した研究開発部門として設立され、デジタルプロジェクトの企画・実施を担当しました。独立性により、迅速かつ柔軟な取り組みが可能となりました。
● My Starbucks Ideas(MSI)ウェブサイトの立ち上げ(2008年)
顧客の声を集めるためのウェブサイト。ユーザーは自由にアイデアを投稿でき、人気のあるアイデアは実際に店舗で採用されることも。例として、無料Wi-Fiや「ハッピーアワー」などが生まれました。
● スマートフォン向けアプリの開発(2009年~)
myStarbucks(mS)とMy Starbucks Mobile Card(MSMC)
ユーザーはアプリで会員カードの管理、残高照会、ポイント確認、店舗検索、モバイル決済が可能に。
2012年には、モバイル決済の売上が3,000万ドルに到達。
● デジタル・フライホイール(Digital Flywheel)戦略の導入
4つの主要要素で構成:
Rewards(リワードプログラム)
購入金額に応じてポイント(Star)が貯まり、特典と交換可能。
2018年には7,500万人のアクティブ会員のうち18%がこのプログラムを利用。
Personalization(パーソナライゼーション)
購買履歴を活用して個別にプロモーションを提供。
2016年からAIを使った個別メール配信で、400,000通以上のカスタマイズメールをリアルタイムで自動生成。
Payment(多様な決済手段)
現金、会員カード、Starbucks Pay(Apple Pay, Paypalなどと連携)、バーコード決済など。
Ordering(モバイルオーダー)
「Mobile Order & Pay」により、スマホで注文→店舗で受け取りが可能。
混雑時の待ち時間を短縮。米国では全体注文の11%を占める。
さらに「My Starbucks Barista」音声アシスタントも導入。
3. F&B業界がスターバックスから学べること
スターバックスの事例は、他のF&B企業や小売業者にとって、貴重なデジタル変革の教訓を提供しています。
顧客中心のデジタル戦略が成功の鍵
すべての取り組みに「パーソナライズ」の視点を
1対1のマーケティングを重視
モバイルアプリを軸にエコシステムを構築
スターバックスは、単なるマーケティング施策を超えた本質的なデジタル変革を通じて、顧客体験の向上と売上拡大を実現しました。F&B業界におけるデジタルトランスフォーメーションの模範と言えるでしょう。